『わたしの美しい庭』インタビュー・前編

ギュッとした絆はしんどい…凪良ゆうが書く“前向きな縁切り”

ギュッとした絆はしんどい…凪良ゆうが書く“前向きな縁切り”

2020年に『流浪の月』で本屋大賞を受賞した小説家の凪良ゆう(なぎら・ゆう)さんによる『わたしの美しい庭』(ポプラ社)の文庫版*が12月7日に発売されました。*単行本は2019年に発売

血がつながっていない百音と統理の親子と、2人が住むマンションの屋上にある“縁切り神社”を訪れる人たちとのつながりを描いた物語です。

会いたい人に自由に会えなかったコロナ禍が少し落ち着き、今年は2年ぶりに帰省したり、大事な人に会ったりするという人も少なくないのでは? 一方でせっかく世間のしがらみから開放されてのびのびしていたのに、通常に戻りつつある空気に窮屈さを感じている人もいるかもしれません。

「自分を縛っていたものと縁を切ること」がテーマの本作。凪良さんに人との縁やつながり、家族について話を伺いました。前後編。

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“縁切り”を前向きに捉えたかった

——単行本として発売されたのは2019年ですが、反響はいかがでしたか?

凪良ゆうさん(以下、凪良):『わたしの美しい庭』は、私が今まで書いた物語のなかで格段に空気感が優しい小説です。と言いつつ優しいことばかり書いているわけではないのですが、癒やされる感じがするというか……。それはやっぱり、ポプラ社さんのイメージだと思います。児童書を出版されてますし、企業理念にも「夢と感動を与える『本』をつくり、心豊かに生きる社会の発展に貢献します」ってあって。そのエッセンスを分けてもらったなと感じているので、ポプラ社さんとじゃないと作れない本だったと思います。

——「縁切り神社」という設定が面白いなと思いました。縁切り神社を舞台にした経緯を教えてください。

凪良:最初は、マンションだけの設定で屋上に「縁切り神社」があるという設定はなかったんです。ただ、担当編集者さんと話し合ったときに、「住人たちを一つにする何か大きなテーマがあるといいですね」と提案をいただき、屋上に「縁切り神社」を作ろうかというアイデアが浮かびました。

私は京都に住んでいるのですが、以前に有名な縁切り神社の近くに住んだことがあります。

——あのたくさんのお札が貼られたトンネルがある……。

凪良:そうです(笑)。“縁切り”と言うと、ネガティブなことを想像されるかもしれませんが、そういうおどろおどろしいものではなくて、“縁切り”というものを前向きに、良い感じに捉えられたらいいなと思いました。

縁ってスパッと切れたら楽なんですけど、自分では切りづらい。だから、そのきっかけとして、人形(ヒトガタ)に縁を切りたいものを書いて、お祓い箱に落とすっていう。心の中の作業だけだと難しいことを、一回紙に書いたり、形にして流すことでちょっとは切りやすくなるのかな? と思いながら書きました。

——確かにこの小説に出てくる“縁切り”はポジティブと言うか、みんな縁切りすることで何か吹っ切れたり、一歩を踏み出しますね。

凪良:そうですね。一方で、切っても切っても迷いが出てくるのが人間だと思います。縁切り神社で「世間体」と縁切りした桃子という人物が登場しますが、彼女だってこれから生きていく日常のなかでまた迷ったりすると思うんです。まあ、そのたびにまた切っていけばいいのかなって。

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縁の結び目はふんわりしていてほしい

——凪良さん自身は、縁についてどのように考えていますか?

凪良:「縁を結ぶ」とか言いますけど、結んでも簡単に切れるものかなって。結んでは切れて、結んでは切れて、何回も何回もやっていくのが縁だと思っています。一回仲良くなったからといって一生友達ということはなかなかないし、子供のときなんてクラスが変わっただけで友達のメンツも変わりますよね。

私は、そういう“ギュッ”と結ばれるイメージがあまり好きではなくて……。結ばれていてもいいけれど、その結び目はふんわりしていてほしい。それに、「一回結んだから大丈夫!」と縁をぞんざいに扱うのではなくて、大事な人とは結び目がほどけないように注意するとか、気遣いが大事なのかなと。それが「親しき中にも礼儀あり」ということだと思っています。

——“ギュッ”と結ばれた縁とか絆ってしんどいなって思います。

凪良:私も束縛されることがあんまり好きではないんです。ずっと同じ場所にいるのも嫌だし。どこに行ってもいいけど、「また会おうね」って約束できるほうがいいじゃないですか。

——友人でも時期やタイミングによって、関係が離れたり、また仲良くなったりということもありますよね。

凪良:私も何年か前、女友達に縁を切られたことがあります。仕事が忙しくて、誘いを3、4回連続で断ったんです。それでやっと、会えるってなったときに私が仕事でキャンセルしてしまったんです。「友達だったら、普通そこは都合つけるでしょ? もうあんたとは友達付き合いする自信がない」と言われて、SNSも全部ブロックされました。それで、謝ることすらできなくなってしまったんですけれど。

でも、よく考えて同じことを友達にされて怒るかって言ったら、おそらく私は怒らないだろうなと。忙しいときは誰にだってあるものなので「じゃあ暇になったら会おうか」と言うと思います。「忙しい」と言われたら、「ああ忙しいんだな」って思うだけなので。

——相手の言葉を額面通りに受け取ることも人間関係を築いていく上で大事なのでしょうね。

凪良:相手がそうではないことを考えていたとしても、口に出して言っていることはそう受け止めてほしいからそう言っているのだろうし。そこは素直に「OK。分かった」って受け止められたら楽ですよね。

……まあ、そうは言ってもたまに人恋しいときがあって、もう一回声をかけてくれたらって思うときもあります。なかなか割り切れないこともあって、本当に勝手なのですが(笑)。

——確かに「もう追いかけてこないで」って言って走り出しながらも、後ろをちらっと確認しちゃうみたいなこともありますね(笑)。

ギュッとした絆はしんどい

——「絆」という言葉も、言われすぎるとしんどいなって。

凪良:「絆」も、あんまり言われると重たくなりますよね。もうちょっと軽やかでいいのではないか? って思います。東日本大震災の後に、どっちを向いても「絆」って言われているときがあって、もちろんすごく大事なことなんですけど、言われすぎると疲れちゃうよねって思ったのを覚えています。

——凪良さんは昔からそういう考えだったんですか?

凪良:私は小さい頃から、家族の縁も薄かったので……。逆に、“ギュッ”とした縁のほうが分からないのかもしれないです。「今はこの人が隣にいるけど、ずっとは一緒にいないよね」という感覚で、誰とでも付き合っているのかもしれないです。聞きようによっては、冷たい感じに聞こえるかもしれません。

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“荷物”を持ち続けるのはしんどいけれど…

——高校生の時に亡くなった恋人のことが忘れられないまま39歳になった桃子は「世間体」と縁切りします。読者の中には桃子に自身を重ねる人も多いのかなと想像しました。

凪良:桃子は一番、読者さんからの共感が多かったですね。桃子は最終的に亡くなった彼氏との思い出を切るのではなくて、彼との思い出と生きていくために「世間体」と縁切りしますが、読者さんから「意外だったけど、その選択肢もありだと思いました」という感想をいただきました。

「彼のことは忘れて、新しい人と幸せになりなさい」というのが、周囲の客観的な意見だと思うんですけど、彼女はそれに従わなかった。桃子なりの幸せを桃子が自分で決めた瞬間なのですが、悲しいからって無理に忘れる必要はないし、自分が持っていたいものはずっと持ち続ければいい。そんな部分が私とも共通点があるなと思いました。

——悲しい思い出を抱え続けることは、つらいけれど……。

凪良:抱え続けるのもしんどいけれど、捨てるのもしんどいんだったら、どっちのしんどさを選ぶかは本人が決めればいいんじゃないかな? ってことなのかもしれないですね。

——誰しも自分の“荷物”を持っているというのは『流浪の月』とも共通するテーマですね。

凪良:どれだけ仲良くなって、近しい間柄になっても、相手の人が持っている“荷物”を代わりには持ってあげられないんですよね。その人の生き方とか過去とか、すべてに関わってくる“荷物”だと思うので。そこは歯がゆいですけど、その人にしか持てないんです。言葉にすることで楽になるんだったら、話を聞くことくらいはできますけどね。

——つい「よかれと思って」周りはいろいろ言ってしまうけれど……。

凪良:「そんなに苦しまなくていいよ」「荷物を持ってあげるよ」とかね。でもそういう“お節介”はあまり好きじゃないですね。だって、言われるのも嫌ですよね。そういう意味で「よかれと思って」というのはすごく厄介だし、「善意は人を救わない」と思っています。

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(聞き手:ウートピ編集部・堀池沙知子)

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